異文化の色彩が宿る"浮世の氣楽絵”――柴田亜美インタビュー
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幼少期を海外で過ごし、異文化の空気を身近に感じながら育った柴田亜美。その後、漫画家として確固たる地位を築いた彼女は、近年、画家として新たな表現領域へと歩みを進めている。和の題材に宿る神話性やユーモアに、どこか異国の光を思わせる色彩が重なるその作品は、独自の存在感を放つ。本インタビューでは、創作の原点から伝統との関係、素材や技法の工夫、制作を支える環境、そしてこれからの展望までを丁寧に語ってもらった。軽やかさの奥にある確かな美意識に迫る。
異文化体験が育んだ色彩感覚
――創作の原点と美意識の形成について教えてください。
柴田 幼少期にカナダで過ごした経験と、故郷である長崎の持つ異国文化の影響が、自分の画風の基盤になっていると感じています。長崎は歴史的に海外との交流が盛んな土地で、街の空気や文化の中に自然と異国の気配が溶け込んでいます。そうした環境で育ったことに加え、カナダで見た景色や色彩の記憶が重なり、現在描いている神獣や妖怪といった和のモチーフに対しても、どこか諸外国の華やかさや明るさを感じさせる色使いが加わるようになりました。結果として、伝統的でありながらも少し異質な、独自のバランスを持った画風になっているのではないかと思います。
北斎と長崎の伝承をめぐる視線
――伝統や先人との対話についてお聞かせください。
柴田 もともと妖怪が好きだったことに加えて、故郷の長崎では河童の伝説がよく知られていることもあり、今回の題材として河童を選びました。その中でも、先人である北斎が描いた河童に強く惹かれ、そこから着想を得ています。制作にあたっては、実際に長崎の諏訪神社を訪れ、頭に皿を持つ河童の姿をした狛犬を取材しました。伝承としての存在だけでなく、具体的な造形としての河童を観察することで、より自分なりの解釈を深めることができたと感じています。過去の表現に敬意を払いながらも、自分の感覚で再構築していくことが、制作において大切な対話のひとつになっています。

胡粉ジェッソとアクリルガッシュが生む質感
――素材の探究と独自の技法について教えてください。
柴田 今回の制作では、浮世絵が持つ落ち着いた質感と、異国的な鮮やかさを両立させることを意識しました。そのために、下地には胡粉ジェッソを使用し、その上からターナーのアクリルガッシュ「和」ジャパネスクシリーズで着色しています。胡粉ジェッソによって表面にやわらかなマット感が生まれ、そこに重ねる色彩がより穏やかに定着します。その結果、一般的なアクリル絵具に見られる強い艶を抑えつつ、華やかさは失わない、落ち着いた発色を実現することができました。
素材の選択によって表現のニュアンスが大きく変わるため、その組み合わせを探ること自体が、制作の重要なプロセスになっています。
三つのアトリエと自然光のリズム
――制作環境と日常のルーティンについてお聞かせください。
柴田 制作はできるだけ自然光のもとで行うようにしています。日が昇ると同時に仕事を始め、日が沈むとその日の制作を終えるというリズムです。この生活を続けていると、日の長さの変化によって自然と四季を感じることができ、それが心や体調の安定にもつながっているように思います。
また、現在は東京の自宅、京都の高台寺さまのご厚意でお借りしている境内の書院、そして長崎の実家という三つのアトリエを使い分けています。例えば、エネルギーの強い作品を描きたいときは東京、侘び寂びの感覚を大切にしたいときは京都、自然の気配を取り込みたいときは長崎というように、作品の方向性に応じて場所を選んでいます。それぞれの土地の空気が、作品に少しずつ影響を与えていると感じています。
日々に寄り添う絵画を目指して
――未来への展望と鑑賞者へのメッセージをお願いします。
柴田 現在は月刊美術で毎月一枚の絵画を描き下ろしながら、新たに絵本の制作にも取り組んでいます。これまで漫画という形で多くの方に作品を届けてきましたが、絵画という表現でも、同じように誰かの日常に寄り添えるものを生み出していきたいと考えています。私の絵を見た方が、その日一日を少し元気に過ごそうと思っていただけるような、そんな力を持つ作品をこれからも描き続けていきたいです。
「オマージュ北斎2」の柴田亜美作品はこちら ↓画像をクリック↓
柴田亜美 河童狛犬 アクリル、キャンバス
執筆:月刊美術プラス編集部
