「起業1年目、私がこの猫を“相棒”に選んだ理由」――はじめてのアート購入体験記

「起業1年目、私がこの猫を“相棒”に選んだ理由」――はじめてのアート購入体験記

「アートを買う」――。その言葉には、どこか高尚で、少しハードルの高い響きがあるかもしれません。しかし、一枚の絵画との出会いが、ふとした瞬間に自分の人生を応援してくれる「お守り」のような存在に変わることがあります。

今回は、「月刊美術プラス」を通じて、人気作家・山田貴裕氏の作品《チャンスを掴む猫》を初めて購入されたある女性(40代・起業家)のストーリーをご紹介します。なぜ彼女は、数ある作品の中から「金魚を咥えたフェルメール猫」を選んだのでしょうか? その背景には、新しい挑戦を始めたばかりの彼女ならではの共感と、予期せぬ温かい繋がりがありました 。

「可愛い」だけじゃない。私の背中を押した“金魚”の意味

「最初は、単に『面白いコンセプトだな』と目に留まったんです」

そう語る彼女が購入したのは、神戸出身の画家・山田貴裕(やまだ たかひろ)氏の作品、《チャンスを掴む猫》。世界的な名画、ヨハネス・フェルメールの《真珠の耳飾りの少女》をオマージュした氏の代表作《フェルメール猫》のシリーズとなる本作では、ターバンを巻いた愛らしい猫が、口元に鮮やかな「金魚」をしっかりと咥えています。

知人に教えてもらった「月刊美術プラス」のサイトを訪れてみると、ちょうど特別展「猫・ネコ・CAT ~肉球とモフモフと~」が開催中でした。

いろいろな作風の絵が見られるし、かわいい猫ちゃんたちを眺めているだけでも楽しいな、なんて思っていたところで目に留まったのが、その《チャンスを掴む猫》。

彼女の心を動かしたのは、そのユニークなビジュアルだけではありませんでした。

「私はちょうど今年、会社を辞めて起業したばかりの『1年目』なんです。不安も希望も入り混じる毎日の中で、この作品のタイトルにある『チャンスを掴む』というフレーズが、個人的に深く刺さりました。金魚=チャンスをしっかりと口にしているこの子の姿が、なんだか『今の私』に必要な姿勢を教えてくれている気がして」

昔、ヨーロッパに住んでいた頃は美術館巡りが日常だったという彼女ですが、これまで「作品を購入する」という意識は希薄だったと言います。現在住んでいる家では、お母様が支援活動の一環で購入していたアフリカの現代アート「ティンガティンガ」が飾られているものの、自らの意思でお金を出してアートを買うのは、今回が初めての経験でした。

「母が楽しそうに絵を選んでいた姿を思い出して、自分もそういう年齢になったのかな、と(笑)。でも、いざオンラインで購入ボタンを押すときはドキドキしましたね」

「ティンガティンガ」に加え、新たに玄関に並べられた《チャンスを掴む猫》
「ティンガティンガ」に加え、新たに玄関に並べられた《チャンスを掴む猫》

画面越しでは伝わらない「重厚感」と、作家からのサプライズ

初めてのオンラインでの絵画購入。不安がなかったわけではありませんが、届いた箱を開けた瞬間、その不安は「感動」へと変わりました。

「絵がどんな形で届くのかも知らなかったのですが、しっかりと緩衝材で包まれていて、まずは安心しました。注文後の流れや発送についてもスムーズで、連絡いただいた通り約1週間で届きました。絵そのものに関しては、Webサイトの画像で見ていたときはもっと平面的だと思っていたんですが、実物は全然違いました。山田先生特有のペン画のタッチが、デジタル彩色と融合して立体的に感じられて、まるで本物の猫がそこにいるような存在感なんです。セットされていた額縁も重厚感があって、飾った瞬間にその場の空気が『アートのある空間』に変わりました」

さらに彼女を喜ばせたのは、作品に添えられていた「手書きのメッセージ」と「展示会の案内状」でした。

「作家さんご本人が、直筆でメッセージを添えてくださっていて、作品を通じて人と人との体温が通い合うような温かみを感じました。同封されていた案内状を見ると、ちょうど近々、高知県で個展をされると書いてあって。実は私、実家が福山(広島県)なんです。帰省のタイミングで足を伸ばせば行ける距離なので、『これは呼ばれているな』とご縁を感じてしまいました」

実際に、山田貴裕氏は2025年12月中旬より、高知県四万十町の「岩本寺」や「文本酒造」にて個展を開催しています。オンラインでの購入が、リアルな旅のきっかけを生む。これもまた、アート購入の醍醐味と言えるでしょう。

購入した絵画とともに送られてきた手書きのメッセージと個展の案内
購入した絵画とともに送られてきた手書きのメッセージと個展の案内

玄関の「守り神」として

現在、《チャンスを掴む猫》は彼女の自宅兼オフィスの玄関に飾られています。

「出かけるとき、帰ってきたとき、必ずこの子と目が合うんです。そのたびに『よし、今日もチャンスを掴みに行こう』とか『今日もお疲れ様』って、心の中で会話しています。単に『かわいい』という癒やしだけでなく、自分の決断を肯定してくれるような満足感があるんです。今ではすっかり、私の“守り神”ですね」

起業という荒波に漕ぎ出した彼女にとって、その猫は単なるインテリアを超え、初心を思い出させてくれる頼もしい「相棒」となりました。

編集後記:山田貴裕作品が持つ「親しみ」と「品格」

今回ご紹介した山田貴裕氏は、幼少期からの色覚の特徴を活かし、モノクロームのペン画で動物の体温や毛並みの柔らかさを表現することに定評がある作家です。近年はデジタル技術を融合させた《フェルメール猫》シリーズなどで、国内外のアートフェアでも高い評価を得ています。

彼の作品がこれほどまでに支持される理由は、美術に詳しい愛好家だけでなく、今回のお客様のように「初めてアートに触れる人」の心にもすっと入り込む、普遍的な「愛らしさ」と「物語性」があるからではないでしょうか。

あなたも、ふとした瞬間に目が合い、人生を少しだけ前向きにしてくれる「運命の一枚」を探してみませんか?

【参照リンク】
山田貴裕 アーティストページ(月刊美術プラス)

特別展「猫・ネコ・CAT ~肉球とモフモフと~」(※山田氏の作品が出展されているオンライン企画展)

山田貴裕インタビュー記事「フェルメール、ゴッホ……手描きとデジタルで猫の世界を広げる」

執筆:月刊美術プラス編集部

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