1000年後へ届く絵を――溝口まりあインタビュー

1000年後へ届く絵を――溝口まりあインタビュー


1000年先に残る作品を目標に、日本画の伝統と自身の感性を重ね合わせながら制作を続ける溝口まりあ。幼少期から育まれた絵画への情熱と、伊藤若冲の作品との出会いが進路を決定づけた。本インタビューでは、「オマージュ北斎」出品作に込めた思考や、素材・技法への徹底した探究、さらには制作に向き合う静謐な姿勢までを紐解く。富士山という普遍的なモチーフに託された祈りと、鑑賞者に寄り添う作品観が浮かび上がる。

 幼少期から日本画へ——原体験と志のかたち

――画家を志したきっかけを教えてください。

溝口 画家になろうと決めたのは小学4年生の頃です。幼稚園の年少の頃からアトリエ教室に通っていたのですが、毎回スケッチブックを一冊描き切る程、絵を描くのが大好きでした。

――日本画の道に進むと決めた背景には何があったのでしょうか。

溝口 高校2年生のとき、展覧会で伊藤若冲の『群鶏図(ぐんけいず)』の実物を見る機会がありました。その迫力と色彩の美しさに衝撃を受け、涙が止まらなくなってしまったんです。「私も時代を超えて後世に感動を伝えられる作品を描きたい」と強く思い、日本画を専攻しました。

――作品制作における目標について教えてください。

溝口 目標は1000年先に残る作品を制作することです。後世の人々を見守り、共に生きていく相棒となる作品を届けたいと考えています。また、技法や高品質な素材にもこだわり、物理的にも1000年もつ絵を目指しています。

北斎へのオマージュ——「凱風快晴」を描き続ける理由

――「オマージュ北斎」への参加は今回で2回目とのことですが、どのような思いで臨まれましたか。

溝口 1回目の時に描いた「冨嶽三十六景 凱風快晴」のオマージュ作品をさらに追求したいと思い、思い切って3点とも同作のオマージュにしました。

――なぜ「凱風快晴」をモチーフに選ばれたのでしょうか。

溝口 一つの版で同じ構図ながら全く異なる表情の富士山を表現している点に強く惹かれました。ダイナミックで柔軟な「赤富士」と藍摺版の「青富士」、その両方に感銘を受けたことが理由です。

――制作にあたってどのようなリサーチを行いましたか。

溝口 江戸時代から現代まで富士山の姿は変わっていません。葛飾北斎が現代に生きていたらどのような表情の富士山を描いただろうかと想像を膨らませました。「すみだ北斎美術館」で実物の浮世絵を取材し、さらに本物の富士山を毎日観察しながら制作を進めました。

北斎 「冨嶽三十六景 凱風快晴』(赤富士)
北斎 「冨嶽三十六景 凱風快晴」(赤富士)
北斎 『冨嶽三十六景 凱風快晴(藍摺版)』
北斎 「冨嶽三十六景 凱風快晴(藍摺版)」

素材と技法——偶然性を生かした表現

――作品に用いる素材について教えてください。

溝口 葛飾北斎が生きていた頃に浮世絵に使われていた画材を調べ、実際に画材店を巡って素材を集めました。プルシャンブルーや紅花などを使用しています。

――普段の制作技法と今回の作品との関係はどのようなものですか。

溝口 普段は和紙を揉み紙にし、墨のたらし込みなどの技法で猫を描いています。今回もその技法をそのまま用い、自然の滲みを薄く何層にも重ねて描きました。

――表現において大切にしていることは何でしょうか。

溝口 自然の滲みを生かし、偶然性の中で生まれる美しさを作品に閉じ込めることです。

ウズベキスタンの「ヒヴァ」を取材

制作環境と集中——無音の中で向き合う一瞬

――制作時の環境について教えてください。

溝口 作品を制作する時は基本的に無音の環境で描いています。

――その理由や制作時の心構えについてお聞かせください。

溝口 作品に込める思いは一つと決めています。耳や目から入る情報が作品に影響しないようにし、全力で集中して一瞬一瞬を大切に制作しています。

――印象的な制作の時間はありますか。

溝口 雨の日は雨音が楽しいので、制作する時間として楽しみにしています。

旅と祈り——これからの挑戦と作品に込める願い

――今後挑戦したいことについて教えてください。

溝口 まだ訪れたことのない国を旅しながら作品制作をしたいです。これまでアメリカのグランドキャニオン、イタリア、ウズベキスタン、タイ、トルコなどに取材に行き、多くの作品を制作してきました。現地で体験し、感動という名の砂金を集め、それを作品として表現しています。

――作品を手にする鑑賞者にとって、どのような存在であってほしいと願っていますか。

溝口 普段は黒猫を中心に描いています。黒猫は魔を祓い、幸運を招く存在であり、凛として自由な姿に人は惹かれます。今回は富士山を描きましたが、その芯は同じだと感じました。

――富士山というモチーフに込めた意味を教えてください。

溝口 凛として美しい富士山は、人々を惹きつけ続けています。古くから信仰の対象であり、末広がりの形から繁栄や不死といった縁起の良い象徴でもあります。私の作品が、人生の相棒や家族、守り神のような存在になることを願って描いています。

 

「オマージュ北斎2」の溝口まりあ作品はこちら  ↓画像をクリック↓

溝口まりあ 「凱風快晴」−春−

溝口まりあ 「凱風快晴」−春− 日本画・岩絵具・顔料、和紙

 

溝口まりあ 「凱風快晴」−夏− 日本画・岩絵具・顔料、和紙

 

溝口まりあ 「凱風快晴」−冬− 日本画・岩絵具・顔料、和紙

 

 

執筆:月刊美術プラス編集部

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