家に絵を飾りたい!どんなサイズの絵を選べばいいの?――はじめてのアート購入で迷わないための基礎知識と選び方ガイド
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はじめに:絵を飾ることで暮らしが変わる
部屋に一枚、絵を飾る――たったそれだけで、空間の空気が変わります。
白い壁に彩りが生まれ、光の映り方が変わり、そこに住む人の感性までも映し出すような、不思議な力が絵にはあります。
とはいえ、いざ「家に絵を飾りたい」と思っても、最初の一歩は意外と難しいもの。
「どんなサイズがいいの?」「額縁ってどう選ぶの?」「そもそもどこで買えばいいの?」「価格の違いって何?」
そんな疑問が次々と浮かんできて、結局購入をためらってしまう人も多いでしょう。
このコラムでは、アートを暮らしに取り入れたい初心者の方に向けて、絵のサイズや額装の基本、飾る場所の選び方、価格の考え方までをわかりやすく解説します。
そして最後に、どんな気持ちで作品と向き合うとよいのか――“アートを楽しむ心構え”についてもお伝えします。
絵のサイズの基礎知識:まずは「号数」を理解しよう
絵のサイズを選ぶうえで欠かせないのが「号数」の知識です。
日本では、キャンバスやパネルの規格として「号」という単位が用いられます。数字と、アルファベットの組み合わせで表記します。
数字は大きくなるほど長辺が長く、アルファベットはS(Square=正方形)・F(Figure=人物)・P(Paysage=風景)・M(Marine=海景)の4種類があり、長辺に対する短辺の比率が決まっています。Sが正方形で、F、P、Mの順番で短辺が短くなり、したがって細長くなっていきます。
例えば、6号の大きさのFの形の場合、「6号Fサイズ」「6号F」「F6号」、あるいは単に「6F」「F6」と表記し、すべて同じ意味です。

スペースサイズに応じたサイズの選び方
たとえば
F3号(約22×27cm):デスクや玄関棚など小スペースに最適
F6号(約32×41cm):リビングのワンポイントにぴったり
F10号(約45×53cm):壁の主役になる存在感
F20号以上(約60×73cm~):ホテルや店舗など広い空間向け
自宅の壁に合うサイズを考えるときは、「飾る場所から逆算する」のがコツです。
たとえば、ソファ上の壁に掛けるなら横幅1メートル以内がバランスが良く、ダイニングや寝室なら少し控えめな30~50cm程度の作品が落ち着きます。
また、小さい絵を複数並べて飾る「ギャラリーウォール」スタイルも人気です。サイズの異なる作品を組み合わせることで、空間に動きが生まれ、より個性的な印象になります。
額装の種類と絵の種類:作品の“顔”を引き立てる額の力
絵そのものに加え、印象を大きく左右するのが「額装(フレーミング)」です。
額は単なる飾りではなく、作品と空間をつなぐ重要な要素。絵のタイプや飾る場所によって、最適なスタイルが変わります。
油彩画・アクリル画
厚みのあるキャンバスに描かれた油彩やアクリル画は、重厚感を活かすために装飾的な木製額がよく用いられます。クラシックな金縁額は王道ですが、最近ではナチュラルな木地や黒マット仕上げなど、モダンインテリアにも合うデザインが増えています。
日本画・水彩画
日本画や水彩画は繊細な質感を活かすため、マット紙を入れたガラス額装が一般的。余白を多めに取ることで、作品の呼吸を感じさせる空間が生まれます。和室だけでなく、北欧風やナチュラル系の洋室にもよくなじみます。
版画・現代アート
シルクスクリーンやリトグラフなどの版画作品は、シンプルなアルミフレームやアクリルフレームで軽やかに見せるのがおすすめ現代アートや写真作品なら、余白(マージン)を活かしたミニマルな額装が洗練された印象を与えます。
額縁の色や厚みも空間との相性を左右します。白壁が多い日本の住宅では、木目調や白、グレー系が合わせやすく、家具との調和も取りやすいでしょう。
「作品」「額」「空間」の三者のバランスが取れると、家全体の雰囲気が驚くほど引き締まります。
家のどの場所に飾るか?――生活空間別のおすすめサイズと選び方
絵を選ぶうえで、もうひとつ大切なのが「どこに飾るか」という視点です。
同じ作品でも、場所が違えば見え方も印象も変わります。
リビング
家族や来客の目に触れることが多いリビングには、やや大きめの作品がおすすめ。F6~F10号のサイズが最も人気で、ソファやテレビボードの上に掛けるとバランスが良いです。色彩豊かな抽象画や風景画を選べば、空間が一気に華やぎます。
寝室
プライベートな空間である寝室には、穏やかな色合いの作品が向きます。F3~F6号程度の小さめサイズを、ベッドサイドやドレッサーの上に飾ると落ち着いた雰囲気に。夜間照明の光をやわらかく受けるように、反射しにくいマット仕上げの額装を選ぶのもポイントです。
玄関・廊下
人を迎え入れる玄関は“家の顔”。ここに飾る一枚は、自分らしさの表現そのものです。F0~F4号くらいの小作品を、目線の高さに掛けると上品な印象に。四季を感じるモチーフや、幸運を呼ぶシンボル(花、鳥、抽象的な光など)を選ぶ人も多いです。
ダイニング・書斎
ダイニングでは食事の邪魔をしない色合いを。明るい風景や静物画などが好まれます。書斎にはモノトーン調の抽象画や、線の美しいドローイングが人気。思考を刺激しつつ、落ち着きを与えてくれます。
価格帯によって何が違う?――値段の“理由”を知る

同じサイズでも、数万円の作品もあれば数百万円の作品もあります。
では、価格の違いはどこから生まれるのでしょうか?
作家の評価と実績
受賞歴、個展開催歴、美術館収蔵などがあると市場価値が上がります。新人作家でもギャラリーがプッシュしている場合は、将来的な伸びしろが期待されます。
制作技法と素材
油彩やテンペラ、日本画などは制作に時間と材料費がかかるため、高額になる傾向があります。版画は複製が可能なため比較的手に取りやすい価格設定です。
作品の一点性
手描きの一点物と、エディション番号付きの版画作品では価値の基準が異なります。「自分だけの一枚」を求めるなら、原画にこだわるのも良いでしょう。
流通経路とギャラリーの信頼性
百貨店や専門ギャラリー経由では価格にマージンが上乗せされますが、その分鑑定や保存の安心感があります。
信頼できる販売元を選ぶことが、結果的に作品を長く楽しむ近道です。
価格が高ければ良い、というわけではありません。大切なのは、「この作品を自分の暮らしに迎え入れたい」と思えるかどうか。
“価値”とは数字ではなく、毎日眺めたときに感じる幸福感のことかもしれません。
直観で買ってもいいの?――アートは“好き”がすべて

「知識がないのに買っていいのかな?」と不安に思う人もいるかもしれません。
しかし、アートを暮らしに取り入れる目的が“資産運用”ではなく“楽しみ”であるなら、直感を信じて選ぶことが一番の正解です。
美術館で心が動いた瞬間や、SNSで見た絵に惹かれた経験はありませんか?
その感覚こそが、あなた自身の美意識のはじまりです。
アートは頭で選ぶものではなく、心で選ぶもの。
もちろん、リセールバリュー(再販売価値)を意識することも悪くありません。
ただし、それを主目的にすると、どうしても「損得勘定」で選ぶようになってしまい、日常の喜びが薄れてしまいます。
“好き”という感情に根ざした選択は、結果として長く愛せる一枚を導きます。
作家をどう調べる?――信頼できる情報源を味方に

気になる作品を見つけたら、ぜひその作家について調べてみましょう。
最近は多くの作家が自身のWebサイトやSNSを持ち、制作過程や展示情報を発信しています。
展覧会に足を運んで直接作品を見ることで、写真では伝わらない質感やエネルギーを感じることもできます。
また、「月刊美術」や「月刊美術プラス」のような美術専門メディアでは、作家の背景・制作思想・評価の流れなどをわかりやすく紹介しています。
専門誌の編集部やギャラリストが取材・推薦している作家なら、信頼性も高く、安心して購入を検討できるでしょう。
初心者のうちは、「この人の作品をもっと見てみたい」と思える作家を見つけることから始めてみてください。
それが、あなたのアートライフの第一歩になります。
どこで買う?――ギャラリーからオンラインまで
近年、アートの購入手段は大きく変化しています。
以前はギャラリーや百貨店が中心でしたが、現在ではオンラインでも高品質な作品を安心して購入できる時代です。
ギャラリー
実際に作品を見て質感を確かめたい人には、ギャラリーでの購入がおすすめ。スタッフが作家の経歴や作品の背景を丁寧に説明してくれるため、理解を深めながら選べます。展示会では作家本人が在廊していることも多く、直接話を聞く貴重な機会にもなります。
百貨店・アートフェア
百貨店の美術サロンやアートフェアは、複数の作家・ギャラリーが一堂に集まるため、比較しながら選べます。価格帯も幅広く、初心者にも入りやすい環境です。
オンラインショップ
コロナ禍を経て急速に普及したのがオンライン販売。「月刊美術プラス」のような専門メディア運営のサイトなら、編集部が厳選した作家や作品のみを掲載しているため、信頼性が高く、安心して購入できます。
詳細な画像やサイズ表記、額装例なども掲載されており、自宅でゆっくり検討できるのも魅力です(月刊美術プラス掲載作品は、作家自身が作品に合わせて額装しています)。
まとめ:暮らしを彩る“自分だけの一枚”を

アートを飾ることは、単に空間を飾ることではありません。
それは、自分の感性を育み、日常を豊かにする行為です。
朝起きて最初に目にする絵。
夜、静かな時間に眺める一枚。
その小さな積み重ねが、心の余白をつくり、暮らしに潤いをもたらしてくれます。
迷ったときは、まず小さな作品から始めてみましょう。
そして、あなたの直感と好奇心を信じて選んでください。
「この絵を部屋に飾りたい」――その気持ちが生まれた瞬間こそが、アートとの出会いの始まりです。
「月刊美術プラス」は、そんな“最初の一枚”を見つけたいあなたを応援しています。
執筆:月刊美術プラス編集部